ハノーヴァー・マヌーヴァー

【訃報】デッド・オア・アライブのピート・バーンズ氏が逝去

2016/10/28 4号

80年代最高にクールなバンド

80年代は楽器の進化と共にミュージシャンも急激に進化と深化を遂げた10年です。

それまでピコピコしか出なかったシンセサイザーが急激に32音のポリフォニックになり、鍵盤叩く指は32本ねえだろう?みたいな冗談もありましたが、その32の音を音源として鳴らすシーケンサーというコンピューターが現れさらにMIDIで何台もシンセをつないで同時に鳴らすことができるようになり、70年代には厳しかった一人オーケストラのようなこともあっさりとできるようになりました。

ちなみに、その頃、パソコンの方はワープロが出始めた頃で、インターネットは一部米国と欧州の大学が結ばれていた程度で、コンピューターが一番最初に活躍をしたのは音楽の世界だったと思います。

そうした恩恵を受けて、本当に電子音でなければできない音楽を追求する人たちが現れ、主にMTVの普及もあって、急速にお茶の間に電子音だけでできた過激な音楽が普及していくことになりました。

ダンス音楽が一番クールだった

さて、70年代のダンス音楽の中心地はアメリカで、そこは生身の人間が演奏する、肉感的なリズムの黒人ディスコ音楽が中心でしたが、80年代は突然、ここが一番電子化のあおりを受けていきました。やはりこれまで存在しなかった音が活躍するのはこういう肉感的でクールで、限界を突き抜けて理性がぷちっと切れて踊りまくりたくなるような分野が必要だったのでしょう。

特にイギリスのダンス音楽は、アメリカのようなスタジオミュージシャンという演奏集団がいなかったのか、単に新し物好きだったのか、ミュージシャンを雇うお金がないのか、こうした電子楽器に飛びつきました。

ボーイ・ジョージのカルチャー・クラブとか、ワム!とかペット・ショップ・ボーイズとかアート・オブ・ノイズとか、とにかくすごいクールな音で踊れる音楽が次々に出てきたのです。今では普通に聞こえる電子音ですが、この頃、「一体この音はどうやって出すんだいか〜」とまだまだアメリカの影響の強い日本ではプロもアマも首をひねっていたのです。

最高に踊れるのがデッド・オア・アライブだった

そんな中で最高に踊れる人たちがデッド・オア・アライブ(Dead or Alive)だったのです。黒ずくめに豹柄の上着を羽織って中性的なのにマッチョな黒髪のボーカルが野生的に叫ぶのです。それも激しいシーケンサーの電子の刻みに乗って。このビジュアルと音はウケました。

You spin me right round, baby, Right round like a record, baby, Right round round round...となんだか歌詞も催眠術のようなトリップするようなぐるぐるしてくるようなもので、聞く人を半狂乱の踊りへと誘うわけです。

アメリカ勢も電子音楽にがんばって取り組みましたが、クインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」とか、なんだか演奏している人間が見えてくるのです。演奏マッチョだったのです。しかしイギリスの音は完全に機械でクールでこれまでにない知的な興奮をも引き起こしたのです。

そのデッド・オア・ライブのボーカル、ピート・バーンズ(Pete Burns)氏が10月23日なくなりました。急な心停止が原因のようです。彼についてはずいぶん整形を繰り返して、無理がたたったのではないかとか、いろいろと言われていますが、まだ57歳で、というかもう57歳でした。あの音楽史を塗り替えた衝撃から30年が過ぎ、コンピューターがあまりにも普通のものになって、彼の音楽を超えるような衝撃の音楽は出てきたか、と言えばどうも出てきてはいないような気もします。

音楽は楽器の進展と楽曲の進化、そしてそれに魂を注ぎ込むカリスマ・ミュージシャンが一体となってある時期までは進んできましたが、果たして彼を上回るカリスマは今後現れるのか。私は首を長くして待っております。

彼の代表曲、You Spin Me Round (like a Record)は、ハノーヴァー・マヌーヴァーでは「暴れたい」という気持ちを入れていただくと出てきます。彼の曲と同じように暴れずにはいられないのはどんな曲でしょうか!?