傾聴のメリット
2016/11/12 19号
一曲をじっくり聴く
さて、以前多聴と傾聴の話をしました[参考 自分の中でどうレガシーを作るか]。そのとき、傾聴とは何ぞやとおもった方もいるかもしれません。
簡単に言えばじっくり聴くことです。なあんだ、そんなことか。それなら毎日一曲をじっくり聞いているよ、と安心されたことでしょう。
多くの方は、お気に入りの一曲をじっくり何回も聴くのが普通であって、違う曲を毎日何十曲も聴くほうが変ということでしょう。
スピーカーから音を出して家族が一日中おんなじ曲をずっと聞いていると、周りはつい、もういい加減にして!と思ったりするのが問題ですが、この良い曲にはまったら中々抜け出すことができないというのは、曲の聴き方としては実に自然なことです。
曲を聴くか、同じミュージシャンを聴くか、音楽的な部分を聞くか
一般的には同じ曲をじっくり聴くのが傾聴のイメージですが、同じミュージシャンをじっくり聴くのも傾聴です。特に楽器を弾く人は、好きなミュージシャンの演奏を集めて徹底的に聴くことが多いものです。
楽器を弾く人は具体的に、お、ここはこう弾くのか、なるほど、彼らしいな、などと思いながら聴いているわけです。同じミュージシャンの新しいアルバムを聴いたりすると、おお、演奏が上手くなっているなとか、表現力がついたなとか、ちょっと演奏オタクな面にはまっていきます。
さらには音楽的な構造やリズムや、フレーズなどに耳を傾ける人もいるでしょう。ジャズだといわゆるフォービートという、自然なシャッフルのリズムでやるのが普通ですが、60年代にロックの影響を受けてエイトビートや16ビートで刻む人たちも出てきます。そうするとやっぱり、ジャズはフォービートだよなあ、とか、いやいや16ビートで革新的だ、と評したりするわけです。
奏者のクセや持ち味、そのジャンルの特徴を知ることができるのが傾聴のメリット
こんなオタクっぽい聴き方になりがちな傾聴ですが、メリットは当然あります。楽器を弾かない人であっても傾聴はすべきです。
まず奏者のクセや持ち味を知ることができます。大体名前を残した奏者や、楽曲には独特のクセのあるフレーズや全体の持ち味があります。ビートルズのLet it beなど、あの出だしのピアノがあるから成立しているわけですが、アレっぽく弾けば逆にレットイットビー風味の曲に仕上げることができます。
ビートルズに影響を受けたと考えられるバンドは無数にありますが、オーストラリアのJetというグループのLook What You've Doneを聴くと、ああ、ビートルズが好きなんだねえ、とにやっとするわけです。
あるいはジャズのサックス奏者ジョン・コルトレーンに影響を受けた奏者はたくさんいますが、やっぱり、ああ、コルトレーンが好きなんだねえ、というフレーズをばしばし出す若手がいます。彼らは、傾聴して掴んだフレーズや曲構成を自分の財産にして古い音楽を新しい音楽に作り変えているわけです。
こういう影響は、小さいフレーズだけではなく、楽曲全体のリズムや雰囲気にも及びます。私ボサノヴァが好きなの、なんていう場合はそのリズムが好きなはずです。ボサノヴァ歌手というラベルがCDに貼ってあるから好きだという人はいないはずで、あの独特のボサノヴァの楽曲に共通のリズムが好きなはずです。
こうして、一見マニアックな聴き方である傾聴も、繰り返し聴き続けることで、奏者やジャンルの特徴を掴めて、次第に自分の中でリスナーとしての蓄積、レガシーが築かれていきます。
ハノーヴァー・マヌーヴァーではJetのLook What You've Doneは「別れを言う」と打っていただけると出てきます。かっこ(「」)はつけませんよ。ちょっと悲しい雰囲気ですね。これで出てくる曲をぜひビートルズのレット・イット・ビーと聞き比べてください。