ハノーヴァー・マヌーヴァー

女性ジャズシンガーはカエルがゲコゲコ鳴いているのか

2016/11/15 22号

寺島靖国氏によると女性ジャズシンガーはカエルが鳴いているよう

ノラジョーンズにドロシーダンドリッジ、と女性ジャズシンガーが記事で続きましたので、今日も女性ジャズシンガーです。寺島靖国氏という大変面白いジャズ評論というか、文体がジャズ生活日誌のようなものを書く方がいて、私は結構ファンな訳です。

その彼によると確か『JAZZジャイアンツ名盤はこれだ!』(講談社プラスアルファ新書)だったと思いますが、女性ジャズシンガーはエラ・フィッツジェラルドも、サラヴォーンもカーメンマクレエもみんなカエルがゲコゲコ鳴いているようで、好きじゃないそうです。

どうも彼はもっと明るいかわいらしい声の女性ボーカルが好きなようなのですが、確かに女性ジャズボーカルは異常なほど、ドスの効いた低音の、普通の女性より2オクターブは下げてるんじゃないの、みたいなときどき嗚咽しているような音も出すわけです。

それがエラを初めとしたジャイアンツだけではなく、90年代に出たカサンドラ・ウイルソンとか、ダイアナ・クラールとか、あるいは2000年代に出たソフィー・ミルマンなんて見た目はとてもかわいい子もカエルというか、まるで悪魔の使いのような低音で歌うわけです。曲で使う音域が妙に狭いのも気になるところです。

R&Bシンガーは目覚しく技術が発達した

これに対して、ルーツ的にも音楽的にも接点があっただろう、R&Bシンガーは目覚しく進歩するわけです。アレサ・フランクリンもジャズボーカルのような低めのところが通常の歌いだしの高さかもしれませんが、やたら幅が広いわけです。すごい音圧でも、ささやくようにも自在に歌えるわけです。更に80年代になるとホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーが出て、どんどん高い声で歌うようになるわけです。

巷で言うヘッドボイスとかホイッスルボイスとかどんどん音域が上がっていくわけです。練習すれば皆出るようになるので、こぞって練習するわけです。ラッパーのようで実は歌が上手いローリンヒルとか、低域はゲコゲコ声のレディシーの姉御とか、いざというとき、ババーン、と超高音が出るわけです。

音域が広いのがなぜいいかと言うと、メロディーに幅ができ、表現が豊かになるだけでなく、曲の最後に上に転調してゴスペル調に盛り上がったりとかできるわけです。そしてコード展開も自由度が上がるので、より人の記憶に残りやすい新しい名曲を作り出せるようになっていったのです。

ジャズの世界はサボっていたのか、ファンが悪いのか

これに比べて女性ジャズボーカルの方は先に見たように別に進歩はありません。ピアノを弾きながらシャウトするとか、ホイッスルボイスのハイトーンで曲の最後で盛り上げるとか、そういうジャズシンガーはいないわけです。

そんなことしたらもうそれはジャズではないでしょう?と今思いましたか。実はそう思うファンが多すぎたのが原因なのではないかなと思います。

酒場の隅っこでピアノを弾きながら低音でささやくようなうめくような、カエルが・・・のような女性ボーカルばかりをファンが求めたからそうなってしまったのかもしれません。

ジャズの枠組みの中でも(グループですが)マンハッタン・トランスファーや(ラップの元祖で男性ですが)ギル・スコット・ヘロンのような歌の技術を前に進めようとした人もいました。エラ・フィッツジェラルドですら、有名なブルースエットをスキャットでリズミカルに歌うライブ盤などを残していて、新しいことをやっていました。が、後に続いて技術革新をしようという人がいないようです。

さて、80年以降古典的なジャズをそのままやろうという動きが活発になったのは良いのですが、女性ボーカルはこのままゲコゲコで本当にいいのか。もっと刺激があったほうが前へと進めるのではないでしょうか。

ハノーヴァー・マヌーヴァーではエラの超絶スキャットが聞けるブルースエット、「ショッピングで聴きたい」という気持ち検索語に含まれています。低音でゲコゲコではなく、心も体も軽やかになる彼女の歌い方にぜひ触れてみてください。