ハノーヴァー・マヌーヴァー

本人以外が歌ったら流行った曲

2016/11/19 26号

結構ある、本人以外が歌ったほうが良い曲

前回、レナード・コーヘン(Leonard Cohen)のHallelujahがJeff Buckleyにカバーされて、今では200名以上のシンガーにカバーされているということを書きました[参考 【訃報】レナード・コーヘンが亡くなりました]。

さすがに200人にカバーされるという曲は滅多にあるものではないかもしれません。特にポップスやロックはその元の人が歌ったイメージが強く、カバーを歌われても、ああ、オリジナルのほうがいいや!となりがちです。

ジャズでは、スタンダードと呼ばれるほど同じ曲を様々な人がプレイしていますが、ポップスやロックではそういう曲はないのでしょうか。いやいや、それが結構、他人が歌ったほうが流行ったという曲も多いのです。

奇怪なシネイド・オコナーが陰鬱に歌ったあの人の曲

一番思い起こされるのは、今年春に亡くなってしまったプリンス(Prince)が書いたNothing Compares 2 Uです。ええ?シネイド・オコナー(Sinead O'Connor)の曲じゃないの、あれは?と皆さん思ったでしょう。

ところがこの陰鬱な曲、実は丸刈りの奇怪なアンドロイドのような彼女が歌う五年も前にプリンスが作曲して、リリースしたもので、このバージョンはプリンスのThe Hitsというベスト盤に再収録されていたりしますが、出た当時はまったく誰にも知られないような曲だったわけです。

結構ソウルフルに歌っているプリンスの元歌は全然あのどおおと暗いシネイド盤とは違うのですが、印象に残るかと言われると、うーん、いい曲だね、くらいのインパクトしかない訳です。

熟年女性R & Bシンガーの十八番も元祖は売れなかった

Superwomanという曲があります。結婚後、旦那が愛情表現をしてくれなくなったことに不満を持つ、私は、完璧なスーパーウーマンじゃないのよ!という、夫婦生活の日常を上手に切り取っためずらしい歌詞です。

元歌はキャリン・ホワイト(Karyn White)という若い女性R & Bシンガーが歌いましたが、声がなんかきりきりと硬質であまり主婦っぽくなかったのです。ほどほどに売れたのですが、いつの間にか忘れられてしまいました。この曲は主婦の賛歌なはずなのですが、ちょっとイメージと合わなかったのです。

それが三年後にグラディス・ナイトが、ディオンヌ・ワーウィックとパティ・ラベルという熟女二人を引き連れてこの曲をカヴァーしたらバカ売れしたのです。グラディス・ナイトだけでも十分熟女だったのに、三人揃うと恐るべき主婦パワーです。というか柔らかい声で心情を歌うように歌ったこちらの盤が共感を得たのでしょう。

ところで、アリシア・キーズに同名異曲のSuperwomanがあります。こっちは、私はスーパーウーマンだ、(無理して)がんばるんだ!みたいな内容になっていて、明らかにキャリンホワイト盤を意識して作っているのでしょう。

こうして本人が歌ったらあまり売れなかったのに、別の誰かが歌うことで曲本来の魅力が引き出され、それがまたいろいろと他のアーティストの創造性を刺激するというのはなかなか面白い現象かな、と思います。

ハノーヴァー・マヌーヴァーでは、Nothing Compares 2 Uは「気持ち悪い曲」、 Superwomanは「彼と聴きたい」という気持ち検索語に含まれています。