ハノーヴァー・マヌーヴァー

楽器と楽曲の関係が薄れているのがすこし残念

2016/11/21 28号

新しい楽器の導入が音楽の進化を促した

さて、昨日はデジタルフォーマットという音楽の配信の話でしたが、今日は楽器のほうです。

20世紀の初頭から新しい楽器の導入が音楽の進化を促してきたというのは間違いの無いことでしょう。ジャズができあがったのは、第一次大戦で大量に余ったマーチングバンド用の(本来なら高額な管)楽器を市中のミュージシャンが手にして演奏を始めたからという話ですし、特に本当にそうかどうかは分かりませんが、ギターを初めてアンプにつないだジャズの(!)チャーリー・クリスチャン以来、楽器の電気化が音楽に様々な変化をもたらしたのは間違いありません。

その後これも嘘か本当かエリック・クラプトンがギターをマーシャルアンプにつないだらディストーションサウンドが生まれたとか、ジミヘンドリックスがファズやワウワウといったエフェクターで破壊的な音を作ったとか、ムーグのシンセサイザーが出て、キース・エマーソンがブイブイエンジン音を出したとか。その後シンセサイザーが当たり前になって大体今世の中にあふれている普通の音になってしまったわけです。1970年ごろの人が現代にタイムスリップしてきたら聴いたことのない楽器の音が街にあふれていて腰を抜かすことでしょう。

こうした新しい楽器の導入はミュージシャンの創造性を刺激するのでしょう。時代を象徴する楽器を手にしてやはり時代を象徴するような音楽を嬉々として作っていた時代がありました。

90年代に電子化が進みすぎて、進化がなくなった

しかしながらこうした時代を象徴するような独特の音を出す楽器は、90年代に出尽くした感があります。シンセの高性能化もそうですが、特にサンプラーという現実の音を録音してそれにメロディーをつけて出力できるキーボードが出て以来、オーケストラですら鍵盤で再現できるようになってしまったわけです。

そうなるともうみんな新しい楽器音を追求するのがばかばかしくなり、90年代にアメリカを中心に猛威を振るった、アンプラグドとか、昔をリスペクトしてファズを使うオルタナティブバンドとかが出てくるわけです。

あるいはワールドミュージックも90年代に花開きましたが、シンセ音の氾濫に辟易したリスナーが、聞いたことのない楽器の音を捜し求めた結果といえるのかもしれません。

楽器の進化と楽曲の進化の相関がなくなったのが心配だ

電子楽器でもそうですが、生の楽器でも曲のユニークな部分として一体になって思い出される曲が最近余り無いのが心配です。

もはや見たことのない楽器とか、聴いたことの無い音とかは存在しないのでしょうか。

ワールドミュージックという意味ではまだまだ世界にあまり知られていない楽器はたくさんあります。例えばブラジルの弓矢の弓のようなビリンバウとか、ペルーのイスの形をした打楽器カホンとかです。これらはなんか見た気もするけどまだまだ名前が一般に浸透していない楽器です。

問題はこういう楽器をみて、うおー、俺も私もやってみたい!とミュージシャンが思うかどうかです。マーシャルアンプの全開サウンドは当時のギタリスト全員が飛びついたわけで、そうしたムーブメントがあれば音楽全体が影響を受けますが、そうでないとちょっと音のバリエーションが増えたなあ、くらいで終わってしまいます。

変わった楽器構成のグループにすれば面白い音楽をやれるでしょうか?ジャズもそうですが、チンドン屋さんなども楽器の構成がユニークなので独自の楽曲をやれていると思いますので、可能性は大きいです。

ぜひミュージシャンの皆さんには新しい楽器を創造的に使っていただいて新しいこれまでにない音楽を創造していただく姿勢を忘れないでもらいたいと思っています。