Kula Shakerは正当な60−70年代ロックの継承者だ
2016/11/22 29号
音楽的に不幸だった90年代
90年代はロックの世界は不幸な時代だったと思います。ベテラン勢がアンプラグドというわけの分からないブームのせいで、武装を解除され、生ギターをぴろぴろ弾き始め、ハードロックの勇者マイケルシェンカーまで生ギターでぴろぴろやらされていたのは悲痛でした。
一方で若手はグランジに触発されて、普段着でステージに上がり、普段着で生ギターだとおかしいと思ったのか、今度はファズやディストーションをかました爆音だけは出すということを始めました。
曲作りもあまりうまくなく、オルタナティブと呼ばれるようになった多くのバンドは、記憶に残らないグループでした。
何かに似ている、しかし似ていないと言わなければならないロック界の悲劇
そんな中でも人気を博したり、印象に残るバンドもアメリカ、イギリスでいくつかありました。それらは、誰にも全く似ていないか、あるいはなんとなく似ていて、60−70年代の香りがちょっとするというものでした。
誰にも似ていない代表は、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、アラニス・モリセット、べックなどがいました。その反対にあれ、どっか似ているなというのは、レッドツエッペリンと似ているのが勲章のようなパール・ジャムや、どこかビートルズに似ているよな、というオアシスでした。
この似ている人たち、新しいムーブメントとしてわざわざ普段着でステージに上がっているのですが、どこか似ていることで人気を博しているところが皮肉です。特に70年代のロックを継承してハードロック、メタルと進化した人たちを攻撃していたのですから、これは皮肉以上の喜劇とも言えます。
いさぎよく、誰にも似ていないことをずばっとやればいいのに、リスナーはやはりこれまで耳に慣れている音を欲しがるわけですから、どこか似せなければならず、ロックをこの時代やっていた人たちはこの束縛から逃れられず、自ら矛盾に陥っていきました。
ストレートに60-70年代を承継したKula Shaker
そんな中で、60年代後半から70年代前半のロックをストレートに承継したバンドがイギリスに現れました。私は結構手放しでこれはすごい!と喜んだものです。
それが今来日しているKula Shakerです。曲の作り、音の作り、雰囲気、どれを取っても当時のロックなのです。似ているではなく、当時のロックそのものなのです。
彼らはパールジャムとかニルバーナのようにひねくれているわけではなく、当時の曲が大好きなんだというのが伝わってくるわけです。それはデビューアルバム"K"にディープパープルが68年に出したデビューアルバムに入っていたHushなどという曲が入っているところから、おお、これはすごい、と思うわけです。ちなみにディープパープルと聞いてこのデビューアルバムを思い浮かべる人はよほどの当時の音楽のファンしかいないわけです。この曲を演奏しているということは、Kula Shakerは、あのころが大好きだーと大声で誇らしく宣言をしているというわけです。
何かに似ているのと、本当にそれそのものをやっているのとは偉い違いがあります。Kula Shakerはもう20年選手になりましたが、その間、無数にあった、何かに似ているバンドは消えてしまいました。
ジャズのほうでは、80年代にウイントンマルサリスが古典復興運動を興して、当時の曲をそのままやることが当たり前になり、「何々ジャズ」のような新しいものを狙ってジャンルが細分化していくことがなくなりました。ロックのほうも、変に俺たちは新しいことをやっているんだ!という無理やりなジャンル分けは止めて、俺は正当なロックをやっているんだ!と言えるようになってもいいのではないでしょうか。
60−70年代のバンドが変なジャンル分けがないにもかかわらず、それぞれが非常に個性的な独創的な音でした。これからのロッカーたちは、細分化をして認知度を高めるという陳腐で姑息なマーケティング手法ではなく、正々堂々王道のロック道をKula Shakerを見習って歩んで欲しいものです。
Kula Shakerの代表曲、Hey Dudeはハノーヴァー・マヌーヴァーでは「弾ける感じ」という気持ち検索語に含まれています。ぜひ他の同じ気持ちの曲も見てみてください。