ハノーヴァー・マヌーヴァー

ジャズのブラインドテストは面白い

2016/11/23 30号

遊びとしてのブラインドテスト

さて、以前ボージョレーヌーボーの話を書きましたが、今年の出来はいかがだったでしょうか[参考 「今日はボージョレーヌーボーの解禁日!「酒」心に響く曲とは」]。

ワインの世界ではブラインドテストというのがあります。どこで作った何という名前のワインかを当てたり、ワインに使われているブドウ種を当てたり、ベテランは何年に醸造したものかまで当てられるそうです。

中々に面白い遊びだと思いますが、ソムリエを目指す人にとって試験科目であるらしく、遊びを超えた真剣勝負の世界のようです。

ジャズリスナーの世界でもブラインドテストが行われている

「ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100」(河出書房新社)という本では、インタビュワーの小川隆夫氏がプロのジャズミュージシャンに、ジャズの名盤の中から1,2曲を聴かせ、それは誰の演奏かまず当てさせて、それからどういう感想を持っているかを話してもらうという、まさにブラインドテストのやり方で進んでいく面白い本です。

とはいうものの、聞かれる側は後輩や新人が多く、こうしたジャズの名盤で育っていて、しかも自分の吹いている楽器の大先輩の名盤だったりするものですから、何度も聞いたことがあるものばかりで、全然テストにはなっていないのです。それでも中には、ああ、これは誰の演奏だ。たぶん何時ごろのどこレーベルの録音だね、と聞いたことの無いアルバムの演奏者を当てる人もいて中々興味深いです。

更に当てる側は、これはブルーノートのヴァン・ゲルダーの録音だとか、これはおそらく日本で録音された盤だ(そういうものがたくさんあるのです。日本は幸せですね)と当てたりしてちょっと神の領域に入っていくようなコメントをする人もいます(すみません、漫画の神の雫が大好きなんです)。

演奏家だけでなく、リスナーとしてもこの遊びはひそかに楽しまれているらしく、寺島靖国氏と安原顕氏の対談本でもブラインド気味に手持ちの秘蔵のレコードを聞かせ合うということを楽しんでいました。

ちょっと制限をして慣れればできる

そんなことはゼッタイ無理!何十年も聞き続けなければ絶対無理!と思ったでしょうか。

実は私もそう思っていた一人なのですが、先日ほとんど意識していなかったのですが、ハンク・モブレーのディッピン(Dippin')というアルバムの一曲目、The Dipという曲を初めて聴いたのですが、そこで火の玉プレイを展開するトランペットがありました。

まさか私の大好きなリー・モーガン師匠がこんなところで吹いているのか、と思ってジャケットを見ると確かに彼でした。ほかにもポール・チェンバースのリーダー作でドラム、ベース、ギター、ピアノというまるでロックンロールバンドのような編成で作られたベース・オン・トップというアルバムに針を下ろした瞬間、おや、この黒っぽい独特のリズミカルでパンパンはねるギターはケニー・バレルかな?と思ったらやっぱりそうでした。

50年代から60年代のジャズの場合、リーダーだけでなく、サイドメンたちも綺羅星のようなスターですから、サイドをやっていても非常に個性があり、代わりになれる人がいない素晴らしい演奏をしています。

それからレーベルごとにお抱えのサイドを頼める演奏者がいたり、決まったメンバーでサポートをすることが多かったようなので、大体リーダーが誰でいつごろの録音か分かると、後ろの人たちは誰か、なんとなく予想がつくようになってきます。

このように条件付ですが、お友達とお酒でも飲みながら、ジャズ・ブラインドテストをしてみると楽しいでしょう。「ヒント、1965年、ブルーノートの録音!」などと教えてもらえればそうした時代背景も含めて楽しくジャズを知ることができます。