マンネリ化-それはミュージシャンの天敵
2016/12/03 40号
若すぎる天才は演奏に飽きてしまう?
さて、まだ若いのに天国に連れて行かれてしまう天才がいる一方で、あまりに天才の域にたどり着くのが早かったり簡単だったりすると、マンネリ化が来るようです。
私支配人は、スポーツのコーチングの本を読むのも好きなのですが、いかにトレーニングがマンネリ化しないか、試合をただ消化するだけにならないで有意義な自分のスキルを見直す場に持っていけるか、コーチは気を使うのです。
ミュージシャンの場合、そういう体系だったコーチングというものがないですし、マネージャーやプロデューサーが長い目でミュージシャンを育てるという環境もあるわけではなさそうで、スポーツ選手などと比べると、全盛期までどうやって持っていくか、そしてそれをどう維持するかが難しいわけです。
そんな状況で若くしてトップの演奏技術を身につけてしまったりするとマンネリ化に苦しめられるわけです。
若き天才は楽器を転向したりジャンルを変えようとする
どの世界にも若き天才はいるのですが、ハードロック・メタルの世界ではトニー・マカパイン(Tony MacAlpine)がそんな一人です。27歳で出した、Maximum Securityというアルバムが、それまで何人ものハードロック・メタル奏者が挑戦してゆっくりと様々な演奏法を開発しながら頂点へたどり着こうとしていた、クラシックとメタルを融合させた弾き方をあっさりと軽々とこなしてしまったのです。
その弾き方の元となったのはイングヴェイ・マルムスティーンというこの分野の先駆けですが、イングヴェイがレコードを出すたび、余りにも早いパッセージを繰り出すので、これは早回しをしているんじゃないか?と疑われたり悪口を言われたりしていました。トニーマカパインは体感的にその二倍は早いパッセージを軽々と苦労もなく弾いてしまったのです。
そのため一気にメタルの金字塔のようなアルバムになったのですが、彼はどうしたことかギターに飽きてしまい、その後キーボードを弾くようになってしまい、結局あまり良いアルバムを残していません。
あるいはマーカス・ミラーというマイルスデイヴィスと晩年一緒にプレイしたりプロデュースをしたベーシストがいますが、彼もジャコパストリアスやポールチェンバースのコピーが楽々出来たようで、結局サックスを吹いたり、プロデュース業に精を出したりしてベーシストとしてはあまり影響力を残せませんでした。
大物は飽きるとメンバーを変える?
何枚も有名なアルバムを出した大物もやっぱり自分の演奏に飽きるのでしょう。彼らは飽きると一緒にやるメンバーを代えるのがよいと思っているようです。
大物なのだから、もしアルバムを作る気がわかないならもうじっとご隠居でもやっていれば良いのに、とファンは思うのですが、そこは何かを創造したいという気持ちは大物であればあるほど自然と沸いてきて押さえられないのでしょう。
そう考えると例えばレッドツエッペリン解散後、ジミーペイジがデヴィット・カヴァーデルと組んだり、フレディーマーキュリーを失ったクイーンがポールロジャースのようなボーカルと組んでクイーンとして活動していて、ファンにはうーん、なんかちょっと違うな、と思われても、やめられないのです。
あるいは解散したベテランバンドの突然の再結成などもこの流れなのでしょう。2007年に突然再結成して28年ぶりにアルバムを出したイーグルスは、創造性も衰えておらず、そのLong Road out of Edenはビルボード200で一位に輝き、二つのグラミー賞まで取ってしまいました。
プロミュージシャンがマンネリを打破するのは中々大変なのでしょうが、野球のイチローではないですが、ぜひ健全にさらに良い方向で進化するようにそして長く活躍して欲しいと思います。トニーマカパインの名曲Tears of Saharaはハノーヴァー・マヌーヴァーでは「激しい」という気持ち検索語に含まれています。