ハノーヴァー・マヌーヴァー
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日本人が作った世界に通じる音楽用語その1

2016/12/08 45号

日本の商業音楽に対する影響力は

日本人は日本語の曲を聞く人が多いので、日本の音楽界の商業的な規模は小さいと思っている人が多いでしょう。

しかしながら実は日本は商業音楽の規模が非常に大きく、少し前の話ですが、2004年のレコード(CDやテープも含まれると思いますが)売り上げは1位アメリカ121億ドル、2位日本51億ドル、3位イギリス35億ドルとなっています(「Beck Music Guide」講談社より)。つまり世界第二位なわけですから、日本が風邪を引くと世界の音楽界が重病になるくらいのインパクトはあるのです。

当然、ジャズでもロックでも日本公演をしない有名人は滅多にいませんし、特に中国がオリンピック以降、演奏を出来るような場ではないというのが知れ渡り、アジアで演奏できる場所と言えば、日本とシンガポール、あと香港くらいになってしまいました。

共産主義国家と西側国家とが行き来がなかった60年代-70年代になるとこの傾向はもっと顕著で、外国人タレント(外タレ)が満足できる公演が出来るアジアの国は日本と香港しかなかったのです。他のアジアの国はクーデターやら内戦やらで大忙しだったのです。

サイケデリックロックやアートロックだったが

こんな日本ですから、日本の商業音楽関係者が考えた用語が世界の共通語になることがあります。

その代表がプログレッシブロックでしょう。ピンクフロイドの原始心母を発売するときに東芝EMIの担当者がそう呼んだのが広まったという話で、私はてっきり都市伝説(笑)だと思っていたのですが、どうも本当のようです。


この有名なジャケットがプログレの夜明けとなった

それまでこのような音楽を何と呼ぶかは固まっておらず、ブルースの枠からはずれて、新しいミキシングの技術も混ぜて、ループさせたり、音をかぶせたりしてこれまでにない音色でロックをやる人たちは、アートロックとか、サイケデリックロックと呼ばれました。

私も古い雑誌を図書館で読んで確認したのですが、クリームやドアーズがこうしたアートロックと呼ばれる人たちで、ピンクフロイドの一枚目、「夜明けの口笛吹き」もアートロックというのにふさわしい内容です。


確かにアートでサイケデリックだ

プロトEDMとでも言えそうなループ音楽

クラッシックの要素を持つものを指すようになった

確かに録音の雰囲気は面白いですが、先のクリームなどはジャズを歪んだギターでやっているように思えますし、ドアーズは普通のロックなんじゃないのと思います。

当時こうした路線とは違った、クラシックに影響を受けたと考えられる演奏者がリーダーをしているグループがたくさん出てきました。キース・エマーソン率いるエマーソン・レイク・アンド・パーマー(EL&P)やキングクリムゾンなどです。プログレッシブロックは、アートロックの持っていた人工的な録音技術を重ねる音楽というより、演奏者がクラシックぽい素養を持っているかどうかにだんだん比重が移りました。


ミニムーグの爆音で展覧会の絵を弾くEL&P

そうするとだんだん、独立したジャンルとして成立するようになり、クリームやドアーズは追い出されました。しかし初期のディープパープルとか、ユーライアヒープといった、今ではハードロックに入るグループもクラシックぽいということでプログレに入れられていましたが、ハードロックのジャンルが確立してやがて出て行きました。

枠ができるとそれにしたがって作り始める

こうしたジャンルが出来上がることには功罪があります。良いところは、そのジャンルの枠組みを使って後輩がデビューしやすくなることでしょう。クラシックっぽい演奏をシンフォニックに重ねて、ロックの躍動感を持たせて高音の透き通る声で歌えば、あら不思議プログレ・ファンが泣いて喜ぶ名作が出来上がりです。ルネッサンスなどはその典型です。


プログレファンが泣いて喜ぶ定型通りの演奏

良くないところはファンが固定されてあまり増えないところでしょう。数年前、ヴァンダーグラーフ・ジェネレーターの野外コンサートを見たことがありますが、ファンはほとんどオーバー60歳でちょっと笑ってしまいました。もっとも演奏する人たちもそうだからそれはそれで一体感があるのかもしれませんが・・・


ファンと共に老いる。それもまた楽しからずや

それからファンが排他的になって、プログレ本流じゃないことをやり始めたミュージシャンをけなし始めるところでしょう。キングクリムゾンのロバートフリップとか、ブライアンイーノとか、とっくにプログレ本流はやめたのに、ファンは何時までも全盛期のアルバムしか評価しないのが問題です。


ミニマルミュージックに乗って滔々と詩が詠まれる

なので、ジャズの世界で当たり前に起きている、若い人たちが古典ジャズに参入して当時のように演奏する、というのも世代を超えてそのジャンルのよさを伝えるのに必要かなと思います。

もしまだプログレを聞いたことがなければ、冬の透明な空気の中、森の中をさまよう鹿にでもなったつもりでプログレの森を彷徨してみてください。

【12月9日追記】この記事をアップした直後、キングクリムゾンとEL&Pで活躍したグレッグレイク(Vo, B)がなくなったというニュースが入ってきました。ご冥福をお祈りいたします。追悼記事を続いて掲載します。


参考
ウィキペディア プログレッシブ・ロック
https://ja.wikipedia.org/wiki/プログレッシブ・ロック