90年代の名盤20枚特集 その3 ミスエデュケーション 196号
2017/05/23
90年代のR&B総決算の一枚だが歌手としては短命で終わった
支配人:なんだか思わぬサブテーマが見つかって面白いね。英米融合の80年代と再び分裂した90年代ということで。
マヌーヴァ:そうですな。昨日のOKコンピューターなんてまさにイギリス出身者でなければ作れなかった音ですな。
支配人:そういう意味では今日はアメリカでなければ出てこなかったアルバムだね。じゃじゃーん。
マ:おお、ローリン・ヒルのミスエデュケーションですな。邦題ではミスエデュケーションだけですが、英語の方を直訳すればローリンヒルのミスエデュケーション、になって本当の意味が出ていいですな。
支:高校だと思うけど、出席を取っているクラスの情景から始まってローリンヒルだけクラスに来ていない、ちゃんと教育を受けなかったんだ、彼女は!でもそれは今の女性だれでもちょっと当てはまるんだよ、っていう面白い共感の呼び方だよね。ただ僕はこのアルバムというかローリンヒル自体があまり好きじゃないんだ。
マ:え!それは意外ですな。どうしてですかな。
支:正確にいうと期待したのが裏切られたというか・・・彼女が最初に世の中に出てきたのは「シスターアクト2」っていう、映画だったんだよね。歌が本当はものすごい上手な高校生だけど、その高校がコーラス隊を作ったけど、色々な心の葛藤があって、自分はそこで歌うことができなくて苦しむという・・・でも最後に歌ってものすごい感動する映画なんだよね。
マ:ああ、ありましたな。ウーピーゴールドバーグが演じた邦題では「天使にラブ・ソングを」でしたかな。
ヒルの伸びやかな溢れんばかりの才能が聴ける
支:そうそう、あの映画をリアルタイムで見て、ああ、この娘はホイットニーヒューストンの正統な跡継ぎになるんだろうな、と思ったね。実はその前作のシスターアクト1で同じような迷える少女役をやったウェンディ・マッケナという女優は、その後成功した女性の役ばかりをTV女優として演じて長いキャリアを築いたんだね。
マ:なるほど、ちょっと倫理観のある正統な努力によって成功した黒人女性のような人にローリンヒルもなるはずだったということですかな。まあ、ホイットニーも最後はプロ意識もなくなりとんでもない死に方でしたが。
支:まあ、そうなんだよね。それが結構フージーズでデビューしてその後このミスエデュケーションが流行ったけど、結局全世界で1200万枚売れたのはいいけど、後が続かなかったでしょう。
マ:そうですなあ、90年代のアメリカR&Bの総まとめをしました、みたいなアルバムですからその後同じようなものを作りにくかったんでしょうなあ。
支:そうなんだよね、周りの大人がやりたいことや作りたい音を盛るだけ盛って、本当にヒルの進むべき道ではないほうにはめ込んじゃった気がする。ホイットニーやマヘリヤ・ジャクソンのような人にあの歌唱力ならなったと思うんだけどね。結局さっぱりアルバムが出ないまま脱税で短い間だったけど刑務所に入ったりして、まともな音楽活動ができない。コンサートを企画すればすっぽかしや遅刻の常習犯のようだし。ちょっとホイットニーの末期と重なって心配だ。
マ:ある意味、若さという名の運命の交差点でもしかすると間違った方向に行ったということですな。まあシスターアクトから入ってしまうとそうなのかもしれませんが、このアルバムがある意味後にも先にもない完成したR&Bアルバムだというのは間違いないですな。